診断書の記載誤りによる「却下処分」を覆すには
※こちらの記事は2023年6月30日までの情報を元に作成しています。執筆時点以降の事情変更により記事の内容が正確でなくなる可能性がございます。
引用しているウェブサイトについても同様にご注意ください。
障害年金の請求を行うためには、医師又は歯科医師により作成された、障害の状態を表す「診断書」(障害年金請求用の様式)の提出が必要となります。障害の等級の決定については、日本年金機構の審査により、厚生労働大臣が裁定することとされています(実務的にはその委託を受けた日本年金機構が行っています)。
このように、障害年金請求書を提出した場合に、無事に障害年金の支給決定処分がなされれば望ましいことなのですが、残念ながら、審査の結果、年金支給権が得られない場合もあります。書類の返戻、不支給処分、却下処分といわれるものです。
書類の返戻
提出すべき書類が欠けている、診断書等の医証の記載に不備がある(記入漏れ)、初診日の確認が取ることが出来ない等の事情により審査が進められないため、それらを整えた上で再度提出するよう促すものです。
返戻を受けた場合には、保険者側が指摘する申請の補正をし、もしくは不足していると指摘を受けた書類を整え、再度提出することになります。
この際、年金請求書の提出時に発行された「年金請求書の受付(控)」に押印された受付印等による受付日により、審査が再開されることに注意します。
不支給処分
初診日認定の結果、年金保険料納付要件を満たしていない、あるいは、障害等級非該当によるものが大半でしょう。
審査結果に不服な場合、資料や医師の意見書もしくは第三者による証明等を追加提出すれば、不支給処分が覆る見込みのある場合は、審査請求を行うことを検討します。
不支給処分がやむを得ないと思われる場合には、障害状態が憎悪したときに、再度、事後重症請求を行うことが可能です。
審査請求を行って、処分が変更される見通しがあるのか否かについては、経験を積んだ社労士に判断を仰ぐことをお勧めします。
闇雲に自身の希望や審査結果に対する不満をぶつけたとしても、望むような結果を導くことが出来るとは限らないからです。
却下処分
提出した書類のみでは初診日の特定が出来ない、障害状態を判断するにあたり診断書の記載内容が不十分な場合が考えられます。
また、審査側が障害認定するにあたって、何かしらの要件が定められている場合に、これを満たしていると確認出来ない場合にも、却下処分とされます。
今回の事案
さて、今回ご紹介するのは、障害年金請求をご自身にて進められ、却下処分を受けたために、弊所にご相談いただいたAさんの事例です。
問題は、却下決定の理由が、診断書の記載誤りによるものであったことでした。
ご自身で診断書を取得し、年金事務所の案内する手続き方法に則り、請求手続きを完了。
3か月後にAさんが受け取った結果通知書には、まさかの「却下決定」の文字がありました。
事案の概要
・非代償性アルコール肝硬変を請求傷病として、障害認定日の診断書(B病院作成)、現在の診断書(C病院作成)を取得の上、年金事務所へ請求書類を提出。
・約3か月後、障害認定日請求については不支給決定処分、事後重症請求については却下処分と記載された通知書を受領。
・それぞれの通知書に記載された処分理由を確認すると、認定日分については障害状態が認定基準に満たない、事後重症分については「検査日より前に180日以上アルコールを摂取しているため」とあった。
・発病以来アルコールを一切摂取していないし、その事実は診断書を記載したC病院の医師も知っている、当然ながらカルテにもその旨記載があるはずなのに、落胆した。
・提出したC病院作成の診断書の記載内容を確認すると、各検査日においてアルコールを摂取して「いる」を示す部分に〇がついていた。この誤った記載の診断書を年金請求書とともに提出していたことに気付くに至る。
・年金請求を行った際に提出した診断書記載内容が「誤りであったこと」について、年金事務所の窓口で訴えれば、処分変更されると考え、弊所に問い合わせを頂いた。
提出した診断書の記載内容に誤りがあった場合、どうすればいいか
当初Aさんが考えたように、新たな(正しい記載の)診断書を取り付け、年金事務所の窓口に出向いて「以前提出した診断書の記載が間違っていた」と訴える、といった手法により、一度決定された行政処分の変更を求めることはできないと考えられます。
こういった場合には、通常、「審査請求」という手続きをとることになります。
行政不服審査法は、「行政庁の違法又は不当な処分に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度」を定めています。
行政の処分に対し不服があるときや、法令に基づく申請に対して、行政が何らの処分も行わない場合には、「審査請求」を行うことができます。
社会保険(年金に関する決定処分を含む)に関する審査請求は、少し特別で、国民年金法101条、厚生年金保険法90条・91条のほか、「社会保険審査官及び社会保険審査会法」に定められた手続きに則って行います。
Aさんのように年金請求を行ったが、その提出書類に誤りがあったことを、行政処分がなされた後に知ったために、その処分の取消しもしくは変更を求めたいと言った場合には、「審査請求」の手続き方法に従って申立てを行う必要があるのです。
障害年金における障害認定は、原則、書類審査で行われます。
当然ながら、提出した書類(医証を含む)の記載が正しいものとして審査が進みます。
提出書類に記載の誤りがあったことを後から申立てるには、その記載が誤りであった主張を社会保険審査官(審査請求に対し審査、決定を行う者)に認めてもらえるよう、各種証拠書類を収集の上、審査請求書を作成する必要があります。
また、審査請求は、処分のあったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行わなければなりません(社会保険審査官及び社会保険審査会法第4条1項)ので、注意が必要です。
Aさんの事案に対する弊所のサポート
・障害認定日診断書(B病院作成)を精査し、障害等級に該当していると認められる可能性が極めて低い内容であったため、障害認定日請求に対する不支給処分については争わない方針とした。
・事後重症請求分診断書(C病院作成)について、治療期間中におけるアルコール摂取歴に関するご記載意図確認したところ、単なる事務誤りにより、アルコール摂取して「いる」を意図する項に〇を付してしまった、との回答を得た。
早急にカルテ開示を行い、事実関係を明らかにした上、診断書作成医師に「陳述書」(どのような経緯で誤記載となったか、実際のアルコール摂取状況は如何様であったかを明らかにした書面)の作成依頼を行った。
・C病院受診期間中の全カルテ写し、診断書作成医師(C病院)の陳述書、審査請求書(審査請求の趣旨及び理由書面を含む)を、Aさんの代理人として弊所社労士が整え、管轄社会保険審査官に提出した。
審査結果の結果
審査請求書の提出をしてから約2か月後、日本年金機構本部障害年金センター長より請求者本人(Aさん)宛てに通知があった。
内容としては、審査請求による再調査の結果、処分決定が変更されることになったこと、変更後の内容については、厚生労働大臣の決定後に通知する、とのこと。
社会保険審査官の案内に従い審査請求の取下げを行い、無事、Aさんの自宅に年金証書(厚生年年金3級、事後重症請求分のみ障害認定)が届いた。
審査請求手続きを代理しての所感
障害年金の請求を行おうと決意し、実際に手続きのために必要な書類を集め、医療機関に診断書の作成をお願いし、自身で請求書類を整え、年金事務所に請求書を提出する。
この一連の手続きを、障害を抱えながらご自身で行うことは、とても骨の折れることだと感じます。
Aさんは、当初、これらの手続きを社労士に依頼されずに、ご自身で進められ、やっとのことで審査結果に係る通知書を手にされたわけですが、全く思いもよらない理由で「却下処分」を受けるに至ります。
最初から弊所にお問い合わせ頂き、障害年金請求手続きに精通した社労士が手続きを行っていれば防ぐことが出来たはずの却下処分でした。
今回、弊所で代理いたしました審査請求の結果、処分変更通知を手にされたAさんは、これまで年金請求に費やされた時間を振り返り、長い間抱えられてきた精神的な不安感情から一気に解放されたことを、心から嬉しく思う、と繰り返しおっしゃられました。
年金請求手続きは、多くの方にとって一生に一度あるかないかの、とても大切な手続きです。是非、障害年金の経験が豊富な社会保険労務士にご相談頂ければと思います。