精神の障害
目次
精神の障害の認定基準について
精神の障害については、以下のとおり認定します。
1級 | 精神の障害であって、前各号(肢体や神経系統の障害など)と同等以上と認められる程度のもの |
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2級 | 精神の障害であって、前各号(肢体や神経系統の障害など)と同等以上と認められる程度のもの |
3級 | 精神に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの |
障害手当金 | 精神に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの |
精神の障害の程度は、その原因、諸症状、治療及びその病状の経過、具体的な日常生活の状況により、総合的に認定します。
その具体的な基準は、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に、労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を有するものを3級に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すものを障害手当金に該当するものとします。
精神の障害は、多種であり、かつ、その症状は同一原因であっても多様であります。
よって、認定に当たっては、具体的な日常生活の状況等の生活上の困難を判断するとともに、その原因及び経過を考慮します。
精神の障害の認定要領について
精神の障害は以下の6つに区分して認定します。
- 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
- 気分(感情)障害
- 症状性を含む器質性精神障害
- てんかん
- 知的障害
- 発達障害
1. 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害について
統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害に関して各等級に該当すると認められるものを例示すると、以下のとおりになります。
1級 | 高度の残遺状態(後遺障害)又は高度の症状があるため高度の人格変化、思考障害、その他妄想、幻覚等の異常体験が著名なため、常時援助が必要なもの |
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2級 | 残遺状態(後遺障害)又は病状があるため人格変化、思考障害、その他妄想、幻覚等の異常体験があるため、日常生活に著しい制限を受けるもの |
3級 | 残遺状態(後遺障害)又は病状があり、人格変化、思考障害、その他妄想、幻覚等の異常体験の程度は著しくないが、労働が制限を受けるもの |
2. 気分(感情)障害について
気分(感情)障害に関して、各等級に該当すると認められるものを例示すると、以下のとおりになります。
1級 | 高度の気分、意欲、行動の障害及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり又は頻繁に繰り返したりするため、常時援助が必要なもの |
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2級 | 気分、意欲、行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの |
3級 | 気分、意欲、行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限を受けるもの |
3. 器質性精神障害について
器質性精神障害に関して、各等級に該当すると認められるものを例示すると、以下のとおりになります。
1級 | 高度の認知障害、高度の人格変化、その他の高度な精神神経症状が著名なため、常時援助が必要なもの |
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2級 | 認知障害、人格変化、その他の精神神経症状が高度なため、日常生活が著しい制限を受けるもの |
3級 | 認知障害、人格変化は著しくないが、その他の精神神経症状があり、労働が制限を受けるもの
認知障害のために、労働が著しい制限を受けるもの |
障害手当金 | 認知障害のため、労働が制限を受けるもの |
4. 「てんかん」について
「てんかん」に関して、各等級に該当すると認められるものを例示すると、以下のとおりになります。
1級 | 十分な治療に関わらず、てんかん性発作のA又はBが月1回以上あり、かつ、常時援助が必要なもの |
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2級 | 十分な治療にも関わらず、てんかん性発作のA又はBが年2回以上、もしくは、C又はDが月1回以上あり、かつ、日常生活が著しい制限を受けるもの |
3級 | 十分な治療にもかかわらず、てんかん性の発作のA又はBが年に2回未満、もしくは、C又はDが月1回未満であり、かつ、労働が制限を受けるもの |
上記のアルファベット記号の意味は以下のとおりになります。
A:意識障害を呈し、症状にそぐわない行為を示す発作
B:意識障害の有無を問わず、転倒する発作
C:意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
D:意識障害はないが、随時運動が失われる発作
5. 知的障害について
知的障害とは、知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に持続的な支障が生じているため、何らかの特別な援助を必要とする状態にあるものをいいます。
知的障害に関して、各等級に該当すると認められるものを例示すると、以下のとおりになります。
1級 | 知的障害であり、食事や身の回りのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が不可能か著しく困難であるため、日常生活が困難で常時援助を必要とするもの |
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2級 | 知的障害があり、食事や身の回りのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活あたって援助が必要なもの |
3級 | 知的障害があり、労働が著しい制限を受けるもの |
6. 発達障害について
発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他、これに類する脳機能障害であって、その症状が通常低年齢において発言するものをいいます。
発達障害に関して、各等級に該当すると認められるものを例示すると、以下のとおりになります。
1級 | 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難でかつ常時援助を必要とするもの |
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2級 | 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの |
3級 | 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの |
精神に関する障害の障害認定基準のチェックポイントについて
精神疾患の場合、客観的な検査数値(IQを除く)で障害の程度を判断することが不可能です。
そのため、日常生活動作がどの程度できるかといったことで、障害の程度を判断することになります。
よって、障害年金の申請書に添付する医師の診断書の内容が、障害認定の審査に非常に大きく影響することが、精神疾患に関する障害認定の大きな特徴となります。
傷病別障害年金受給者割合で圧倒的シェアを持つ障害年金
平成21年度に行われたデータによると、障害基礎(厚生)生年金の受給権者総数に占める、精神障害が原因で障害基礎(厚生)年金を受給する者の割合は、27.9%です。
同じく、平成21年度において、障害基礎(厚生)生年金の受給権者総数に占める、精神障害が原因で障害基礎(厚生)年金を受給する者の割合は、21.9%です。
双方を合わせると、49.8%で、障害年金を受給する方のうち、おおよそ2人に1には、精神障害又は知的障害が原因だということになります。
障害年金受給の原因となった症状別割合が多い第2位は中枢神経系の疾患ですが、その割合は14.3%、同じく第3位は肢体の障害で11.3%、第4位は聴覚の障害で5.5%ですから、精神に関する障害が圧倒的なシェアを持っていることが分かります。
精神の障害で障害年金を請求する場合の診断書について
障害年金の請求の際には、障害の状態を記載した診断書を提出しなくてはなりません。
この診断書の様式は複数あり、障害の原因となった傷病に合わせた診断書を提出しないと、障害年金の請求が却下されます。
さて、精神による障害で障害年金を請求する場合に使用する診断書は様式番号第120号の4(精神の障害用)を使用します。
精神の障害用の診断書を用いて障害年金の請求をする傷病について
障害年金の請求において、様式番号第120号の4(精神の障害用)の診断書を使用する主な傷病は以下のとおりです。
- 老年及び初老期認知症、その他老年性精神病
- 脳動脈硬化症に伴う精神病
- アルコール精神病
- 頭蓋内感染に伴う精神病
- 統合失調症
- 双極性障害(躁うつ病)
- てんかん性精神病
- 高次脳機能障害
- その他詳細不明の精神病
- 知的障害
- 発達障害
障害年金の請求においては、どの診断書を使用するか非常に迷うところですが、上記の傷病による障害に基づいて請求する場合には、あらかじめ、厚生労働省の認定事例で定められているので、使用する診断書の種別ははっきりしています。
アルコール依存症による精神障害で障害年金は請求できるか
平成26年6月に肝疾患に係る障害認定基準が改正され、アルコール性肝硬変については、継続して治療を行っていることと、検査日前180日間についてアルコールを摂取して いないことを確認できた場合に限り、認定を行うという一文が加えられました。
これにより、アルコール依存症による精神障害によって、精神の障害で障害年金を請求する場合にも、肝疾患に係る障害認定基準のこの改正が準用される可能性があり、アルコール依存症が原因の障害認定はより厳しいものになると予測されます。
平成26年6月の改正では、「お酒を飲んでいて、それで肝臓を壊した人を、我々の税金や保険料で救済する必要があるのか」という意見が出されましたが、同じ考えが、アルコール依存症による精神の障害の障害認定に適用される可能性は十分にあります。
精神障害に係る等級判定ガイドラインについて
平成28年7月に、厚生労働省が発表した精神障害に係る等級判定ガイドラインは、精神障害の認定基準を客観的に明らかにしたものであります。
このガイドラインの中に、障害等級の目安として、日常生活能力の判定及び日常生活能力の程度の2つの基準を用いて、精神障害によって障害年金を請求する場合の等級の判定基準が示されています。
この基準は、絶対的なものではなく、総合判定において参考にされる程度のものですが、それでも、障害等級の予測を行う場合には、非常に役に立つので、以下で解説します。
このガイドラインによる基準のうち、生活能力の判定は、以下の7つの項目についてそれぞれ4段階評価を行います。
⑴ 適切な食事ができるかどうか
⑵ 身辺の生活保持ができるかどうか
⑶ 金銭の管理と買い物ができるかどうか
⑷ 通院と服薬ができるかどうか
⑸ 他人とのコムニケーションができるかどうか
⑹ 身辺の安全保持及び危機対応ができるかどうか
⑺ 社会性が保持できているかどうか
4段階評価は、以下のようになります。
(a) | できる | 1点 |
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(b) | 自発的又は概ねできるが時々援助・助言必要 | 2点 |
(c) | 助言や指導があればできる | 3点 |
(d) | 助言や指導があってもできない | 4点 |
さて⑴~⑺の各項目について(a)~(b)までの基準により4段階評価を行い、各項目ごとに点数を付けます。
次に、⑴~⑺までの各点数を合計し、それを7で割り、算出された数値が、日常生活能力判定の判定平均となります。
一方、日常生活能力の程度は、以下の基準によって判定します。
第1段階 | 精神障害(病的体験・残遺症状・認知障害・性格変化等)は認めるが、社会生活は普通にできる状態 |
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第2段階 | 精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には援助が必要である |
第3段階 | 精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である |
第4段階 | 精神障害を認め、日常生活の身の回りのことも、多くの援助が必要である |
第5段階 | 精神障害を認め、身の回りのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である |
ガイドラインに基づく精神障害による障害年金の等級認定は、上記の日常生活能力判定の判定平均(1.0点から4.0点まで)と、日常生活能力の程度がどの段階にあるかによって決まります。
そして、その基準は次のとおりとなります。
1級 | 日常生活判定の判定平均(以下「判定平均」)3.5以上かつ日常生活能力の程度(以下「程度」)第5段階 |
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1級又は2級 | 判定平均3.5以上かつ程度が第4段階
判定平均3.0以上3.5未満かつ程度が第5段階 |
2級 | 判定平均3.0以上3.5未満かつ程度が第4段階
判定平均3.0以上3.5未満かつ程度が第3段階 判定平均2.5以上3.0未満かつ程度が第4段階 判定平均2.0以上2.5未満かつ程度が第4段階 |
2級又は3級 | 判定平均2.5以上3.0未満かつ程度が第3段階
判定平均2.0以上2.5未満かつ程度が第3段階 |
3級 | 判定平均1.5以上2.0未満かつ程度が第3段階 |