障害年金と労災は両方もらえますか?

仕事中や通勤途中にけがをしたり病気にかかった場合、まず労災保険の請求を考える方が多いと思われます。さて、労災保険の給付を受けられている方、「障害年金」をご存知でしょうか。

この2つの制度は、全く異なった制度であり、両方を受給することができる場合があります。今回は、この2つの制度について、わかりやすくご説明したいと思います。

1. 労災保険における障害等級は?

労災保険は、厚生労働省労働局が管轄しており、その保険給付に関しては、事業所所轄の労働基準監督署長に請求します。

その治療、休業について保険給付があり、治ゆ(症状固定)後に障害が残った場合には「障害(補償)給付」が受けられます。その等級は、重い方から1級~14級があります。1級~7級は年金形式、8級から14級までは一時金形式での支給となります。

障害等級 障害等級
第1級 障害(補償)年金

障害特別支給金

障害特別年金
第8級 障害(補償)一時金

障害特別支給金

障害特別一時金
第2級 第9級
第3級 第10級
第4級 第11級
第5級 第12級
第6級 第13級
第7級 第14級

2. 労災保険における障害等級は?

一方、障害年金は、日本年金機構により運営業務が行われており、病気やけがで日常生活に著しい制限を受ける場合などに、生活保障を行うために支給される公的年金の一つとなっています。

障害状態の重い方から1級~3級、障害手当金があり、その障害の原因となる傷病にかかる初診日において加入していた年金制度によって、障害基礎年金と障害厚生年金に区別され、支給されることになります。

3. 障害年金と労災における障害(補償)給付、両方受けられますか?

けがや病気により障害を負った場合に、それが業務や通勤に起因するのであれば労災保険により各種給付が受けられますが、障害年金の請求もすることができます。
障害年金は、労災保険の請求手続とは全く異なり、ご自身で日本年金機構に請求手続きを行わなければ支給されることはありません。

では、両方が障害認定された場合、どちらの給付も満額受けられるのでしょうか。答えは、✕です

悩むイラスト

4. 障害年金と労災(補償)給付との併給調整ってなに?

両方の制度において、障害認定された場合、「障害年金」は満額受け取ることになりますが、労災給付は「併給調整」といって、減額され支給されることとなります。ただし、原則として、労災給付が併給調整(減額)されるのは、あくまで同じ傷病により労災給付と障害年金の支給がされる場合です。(以下にその例外についてはご説明します。)

また、労災給付が調整されるのは、「障害(補償)年金」の給付額のみです。労災の障害等級が8級~14級に認定され、「障害(補償)一時金」を受給された方は、調整されません。

下の表にある通り、労災給付が一定乗率により減額されることとなりますが、労災給付だけを受給しているよりは、「減額された労災給付と障害年金の合計額」のほうが多くなるように調整されますので、障害年金を請求して損になるということはないよう考慮されています。

障害年金の障害等級 労災給付の調整率
障害国民年金と障害厚生年金の受給者(1級および2級) 0.73(労災給付が27%減額されます)
障害厚生年金のみの受給者(3級) 0.83(労災給付が17%減額されます)
障害基礎年金のみの受給者(障害基礎年金1級および2級の受給者) 0.88(労災給付が12%減額されます)

5. 20歳前障害による障害基礎年金と労災保険給付

注意しなければならないのは、20歳前障害による障害基礎年金と労災の障害補償年金を受給できる場合、障害年金が支給停止になってしまうということです。

20歳前障害による障害基礎年金とは、国民年金に加入していない20歳前に初診日(病気やケガのために初めて病院に行った日)がある障害により、障害基礎年金を受給することを指します。

この場合には、障害年金の支給事由と同一か、別傷病であるかを問わず、労災の給付が優先され、労災からの給付を受ける場合、障害基礎年金(20歳前障害による障害基礎年金)は全額支給停止となります。

例えば、先天性障害で20歳前障害による障害基礎年金を受給中の労働者が、業務上の理由で労災給付を受ける場合、労災給付を受給する間は、障害基礎年金が支給停止となる、というような場合が考えられます。

6. 労災の障害(補償)給付で一時金を受給した場合

障害年金には、「障害手当金」があります。これは、障害等級3級に満たない障害状態の方が受給可能な手当金(一時金形式)で、初診日が厚生年金に加入中の方のみが受給できる可能性のあるものです。

この「障害手当金」ですが、同一傷病において労災(補償)給付における「障害(補償)給付」を受ける権利を有する場合、受給することができませんので注意が必要です。

診断書イラスト

7. まとめ

業務に起因してけがをしたり病気にかかった場合、その労災保険給付と障害年金給付の請求にあたっては、それぞれの給付間で調整がかかるケースがあり、結果を想定しながら慎重に請求手続きを進めることが求められます。

弊所では、経験豊富な弁護士、社会保険労務士が相談者皆様の利益を第一に考え、請求手続きをサポートさせていただきます。お気軽にお問い合わせ下さい。